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検疫を越えた清流の味 岐阜県産鮎オーストラリア初披露

By SCP編集部 in イベントレポート

岐阜県主催による「Gifu Ayu First Showcase in Sydney」が、2026年1月29日、シドニーの日本食レストラン「Masuya」にて開催された。本イベントは、オーストラリアの厳格な検疫基準をクリアした岐阜県産・長良川の鮎および加工鮎を、シドニーで初めて正式に披露する場として企画されたもの。今後の販路開拓に向けた重要な第一歩となるBtoB向けショーケースである。

招待ゲストは、鮎や日本食材への理解が高い日本人・アジア系を中心とした業界関係者約35名。率直な意見や反応を収集し、今後の流通・商品展開のヒントを得ることを目的とした。

鮎は秋に川で生まれ、冬を海で過ごし、春に川を遡上して成長し、再び秋に産卵して一生を終える一年魚である。川底の石に生える藻を主食とするため、清らかな水環境がなければ育たない魚として知られている。長良川・揖斐川・木曽川の木曽三川をはじめ、清流が県内を縦横に流れる岐阜県は、まさに「清流の国」だ。地域の人々による環境保全の積み重ねにより、良質な藻が育ち、その藻を食べて育つ岐阜の鮎は、香り・味ともに国内外で高い評価を得てきた。

また、鮎は養殖においても清らかな水が不可欠であり、岐阜県では天然水を用い、衛生・温度管理を徹底した養殖が行われている。採卵から成魚までを手がける完全養殖も確立され、年間を通じた安定供給と高いトレーサビリティを実現している。こうした自然環境、伝統、技術が一体となった価値が評価され、2015年12月には「清流長良川の鮎」がFAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産に認定されている。

鮎漁が解禁されると、縄張り意識の強い鮎の習性を利用した「友釣り」をはじめ、岐阜県各地で伝統的な漁が行われる。産卵期に川を下る「落ち鮎」を竹で組んだ罠で捕らえる「やな漁」は、最盛期には1日に数万匹が獲れることも。食事処を併設したやな場は岐阜を代表する観光名所として名高い。清流と鮎が織りなす景観を求め、毎年国内外から多くの観光客が訪れている。

岐阜県ではこれまで、メルボルンにおいても2025年に世界的レジェンドシェフ、Philipp Mouchel氏のレストランで、鮎・飛騨牛・いちごの試食会を実施している。そこで一定の評価や課題を得ながら、部分的な流通実績を積み重ねてきた。今回シドニーでの開催となった背景には、過去に前古田知事によるトップセールスが鱒屋で実施された経緯があり、その関係性を重視した岐阜県の意向があってのことだ。当時、特別に鮎を通関してシドニーで披露したことはあったが、その際は記念式典が主で、飛騨牛がメイン、鮎はあくまで副次的な存在であった。

本イベントは、鮎そのものを主役に据えた、初の本格的ショーケースである。まず始めに、主催者を代表して岐阜県農政部の河尻次長から挨拶が述べられた。

河尻次長は冒頭、岐阜県と鮎の深い関わりについて紹介。清流の女王とも呼ばれる鮎は、岐阜県が養殖生産量日本一を誇り、品質・美味しさともに国内で高い評価を得ていること、近年は海外での注目も高まり輸出量が増加している現状について言及した。

最大で30cmほどに成長する鮎は、資源保護のため岐阜県では約半年の禁漁期間が設けられ、漁解禁は最も早い地域でも5月中旬となる。解禁直後の初夏の若鮎は爽やかな味わいで人気が高く、一方で脂がのる真夏から初秋の鮎は、食通にとって格別とされる。火を通すと白身は驚くほどふんわりとやわらかく、塩焼き、煮物、干物など、さまざまな料理で楽しまれている。焼いた鮎から立ちのぼる、スイカやきゅうりにも例えられる清涼感のある香りは、清流で育った鮎ならではの特長だ。

次長によると、岐阜県は2019年にもオーストラリアで試食会を開催し好評を得ていたという。しかし、当時は商業輸出が認められていなかったこと、その後もオーストラリア政府の規定に沿った検査を継続してきたことから、2024年3月にようやく加熱処理鮎の輸入が正式に認可され、今回のシドニー初披露に至った。

次長は次のように意気込みを語っている。「今回オーストラリアへ岐阜県産鮎を輸出することになった背景には、長年にわたり岐阜の清流とともに育まれてきた鮎の魅力を、海外の方々にもぜひ知っていただきたいという強い思いがあります。岐阜県は長良川をはじめとする清流に恵まれ、鮎と人々の暮らし、そして伝統産業が深く結びついた、世界的にも貴重な地域。近年、海外においても日本食への関心が高まる中、岐阜県産鮎の評価も着実に広がってきました。

今後の展望としては、まずは加熱処理鮎を通じて、鮎の美味しさや多様な食材としての可能性をオーストラリアの皆さまに広く知っていただきたいと考えております。さらに現在は、生の鮎についても安全性を証明するための検査を継続しており、将来的にはより幅広い形で岐阜鮎を楽しんでいただける環境を整えていく予定です。岐阜の清流が育んだ鮎を、世界の食文化とつなげていくことを目標に、今後も挑戦を続けてまいります」

挨拶の最後には、「本日は鮎を中心に、飛騨牛や岐阜の日本酒もご用意しています。鮎という食材の可能性を感じながら、率直なご意見をお聞かせください」と語り、今後の展開への期待を示した。

続いてMasuya Groupの定松CEOのスピーチと、岐阜県農政部農産物流通課の後藤課長によるプレゼンテーションが披露された。

本イベントでは、TRYBERが開発した鮎レシピの中から鮎料理3品、さらに現在海外での販路拡大が進む飛騨牛4品を提供。一部メニューでは岐阜県産日本酒とのペアリングも実施された。

鮎の素揚げ 米菓添え
和風仕立て 鮎のパスタ
鮎の炊き込み御飯
飛騨牛と雲丹の裏巻き寿司
飛騨牛の炙り握り
飛騨牛の冷製しゃぶしゃぶ 胡麻ソース
飛騨牛の一口ステーキ

今回のメニューを手がけた荒金育英シェフは、TRYBERの長谷川氏とともに実際に岐阜県を訪問し、鮎の視察や加工工場の見学を重ねてきた。本日配布された鮎レシピも、すべて荒金シェフによる考案である。

荒金シェフは、今回のレシピ考案にあたり「オーストラリアという環境で鮎をどう生かすか」を最重要テーマとして取り組んだ。川魚である鮎は、オーストラリアの厳しい検疫制度や国内の水産事情により、長らく扱うことが難しい食材だった。現在は、内臓を丁寧に除去し、形を崩さないよう処理したうえで加熱調理・真空パックされた状態で、ようやく輸入が可能となっている。

非常にやわらかな身質を生かすため、衣を極薄にまとわせて素揚げにすることで、鮎特有の香りや酸味、食感を損なうことなく仕上げ、小魚を食べ慣れていないオーストラリアの人々にも丸ごと食べられる形を意識した。さらに、ペペロンチーノや鮎ご飯など西洋料理と組み合わせた提案を行い、出汁には昆布と椎茸を用いることで、鮎の香りを主役に据えながら、前菜から主食まで幅広く使える食材であることを示した。試食会では「業界関係者を含め好意的な反応が多く、鮎の新たな可能性を感じてもらう機会となった」という。

今後について荒金シェフは、「海外では日本と同じやり方は通用しない」としたうえで、塩焼きや天ぷらといった日本の定番にとどまらず、現地の食文化や食材とどう組み合わせるかを具体的に示すことの重要性を強調する。使い方が分からなければ、どんなに優れた食材でも広がらないという考えから、今後は自分の料理の軸やレパートリーを持つ日本人シェフたちに、「鮎の新しい使い方を伝え、海外でも自然に使われる食材へと育てていきたい」と語った。

閉会あいさつと記念撮影をもって、「Gifu Ayu First Showcase in Sydney」は盛況のうちに幕を閉じた。本イベントの最大の目的は、あくまで“シドニーでの第一歩”を踏み出すことにある。次長の挨拶でも語られたとおり、完成されたプロモーションではなく、実際に現地の業界関係者から率直な意見や反応を得ることで、今後の販路開拓に向けたヒントを探ることに重点が置かれていた。

岐阜の清らかな水と、長い年月をかけて受け継がれてきた人々の営みが育んだ鮎は、自然・文化・技術が融合した食材だ。今回のショーケースは、その価値と可能性を海外へと伝える重要な起点となったと言えるだろう。現在、生の鮎についても安全性を証明するための検査が継続されており、将来的な輸入解禁は在豪法人にとっても待ち遠しい。

岐阜鮎がオーストラリア、そして世界の食文化の中で自然に受け入れられ、次なる展開へとつながっていく。本イベントは、その確かな第一歩となった。

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